Inconel 718は、析出硬化型のニッケル基耐熱合金であり、高強度、優れた耐食性、そして高温酸化に対する優れた耐性を備えています。航空宇宙、石油・天然ガス、原子力、化学工業などの分野で広く使用されています。この合金はニッケル(Ni)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、モリブデン(Mo)、ニオブ(Nb)、チタン(Ti)、アルミニウム(Al)などの元素で構成され、γ″相(Ni₃Nb)の析出強化によって高温下でも優れた機械的特性を維持します。
元素 | 含有量(wt%) |
ニッケル(Ni) | 50.0~55.0 |
クロム(Cr) | 17.0~21.0 |
鉄(Fe) | 残部 |
ニオブ(Nb)+タンタル(Ta) | 4.75~5.50 |
モリブデン(Mo) | 2.80~3.30 |
チタン(Ti) | 0.65~1.15 |
アルミニウム(Al) | 0.20~0.80 |
マンガン(Mn) | ≦0.35 |
シリコン(Si) | ≦0.35 |
炭素(C) | ≦0.08 |
硫黄(S) | ≦0.015 |
リン(P) | ≦0.015 |
銅(Cu) | ≦0.30 |
ホウ素(B) | ≦0.006 |
性能項目 | 数値 |
密度 | 8.19 g/cm³ |
融点 | 1260~1336°C |
引張強さ(Rm) | ≧1275 MPa |
降伏強さ(Rp0.2) | ≧1035 MPa |
伸び(A) | ≧12% |
硬度(HRC) | 30~45(熱処理状態による) |
熱膨張係数(20~1000℃) | 13.0×10⁻⁶ /°C |
熱伝導率(100℃) | 11.4 W/m·K |
電気抵抗率 | 1.29 μΩ·m |
優れた高温強度:650~980℃の範囲で高い強度とクリープ耐性を発揮し、長時間の高温使用に適しています。
優れた耐食性:
酸化性環境や酸性溶液(硫酸、硝酸、塩酸)、海水に対して高い耐性があります。
高温下でも優れた酸化耐性を示します。
優れた溶接性:
TIG、MIG、電子ビーム、レーザーなど各種溶接が可能です。
溶接後の割れが発生しにくく、熱影響部の性能も安定しています。
加工性良好:
冷間・熱間加工が可能ですが、硬度が高いため、超硬工具またはセラミック工具の使用が推奨されます。
安定した組織構造:
固溶化処理と時効処理により、微細で均一なγ″相が生成され、機械的特性が大幅に向上します。
熱処理種別 | 温度範囲(°C) | 保持時間 | 冷却方法 |
固溶化処理 | 980~1065 | 1~2時間 | 水冷 |
第一次時効処理 | 720 | 8時間 | 空冷 |
第二次時効処理 | 620 | 8時間 | 空冷 |
※目的は、強化相γ″(Ni₃Nb)を析出させて強度とクリープ耐性を向上させることです。
航空宇宙分野:
エンジン部品(燃焼室、タービンブレード、ディスク)
ロケットエンジン部品
航空機構造用ファスナー
エネルギー分野:
原子炉部品
石油・天然ガス採掘装置
海洋プラットフォーム用耐食部品
自動車分野:
レーシングエンジンの排気系
化学工業:
酸性環境における熱交換器
高温・耐食性を要する容器
合金名 | 使用最高温度(°C) | クリープ耐性 | 酸化耐性 | 溶接性 | 主な用途 |
Inconel 718 | 980 | ★★★★☆ | ★★★★☆ | ★★★★★ | 航空エンジン、石油・ガス |
Inconel 625 | 982 | ★★★☆☆ | ★★★★★ | ★★★★☆ | 化学装置、海洋工学 |
Waspaloy | 980 | ★★★★★ | ★★★★☆ | ★★☆☆☆ | 航空エンジン |
Rene 41 | 1100 | ★★★★★ | ★★★★★ | ★★☆☆☆ | 航空宇宙高温部品 |
Hastelloy X | 1200 | ★★★★☆ | ★★★★★ | ★★★★☆ | ガスタービン、石油化学 |
加工が困難:高硬度で加工硬化しやすいため、超硬やセラミック工具を使い、低切削速度・高送り速度が推奨されます。
長時間高温曝露を避けること:γ″相の粗大化を防ぎ、靭性の低下や寿命の短縮を防止します。
溶接前の表面清掃が必要:汚染物を除去することで、接合品質を確保できます。
水素脆化への対策:酸性環境下では水素濃度の管理が必要で、水素脆化を防ぐ必要があります。